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派遣元責任者とはどんな人?その職務や要件、選任方法を弁護士が解説
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派遣労働は、派遣先企業・派遣元事業主・派遣労働者の三者関係によって成立するため、雇用主と従業員という二者関係からなる通常の雇用契約と比較して、就業に関して問題が生じやすいです。
たとえば、就業先の労働環境に問題がある場合、派遣労働者は、派遣元事業主と派遣先企業のどちらに改善を申し入れるべきか、迷うかもしれません。
答えとしては、派遣労働者を雇用するのは派遣元事業主なので、派遣元事業主が責任を負うことになります。そのため、労働者派遣契約のもとでは、派遣元事業主が適正に派遣労働者の雇用の管理をする必要があります。
そこで、労働者派遣法では、派遣労働者に対する雇用管理の責任を明確にし、その体制を整備する担当者として、派遣元事業主に対して派遣元責任者を選任・配置しなければならないと定めました(第36条)。
本記事では、派遣元責任者の職務や要件、選任方法などについて、詳しく解説します。
派遣元責任者の職務
派遣元責任者が行う職務は、以下のとおりです(労働者派遣法第36条)。
1.派遣労働者であることの明示等(1号)
派遣元事業主が労働者を派遣労働者として雇い入れようとするときは、派遣元責任者から、あらかじめその労働者に対して、派遣として雇用する旨を伝えなければなりません。
2.就業条件等の明示(1号)
派遣元事業主が労働者派遣を行う際は、派遣元責任者から派遣労働者に対し、あらかじめ業務の内容や派遣先の事業所の名前・所在地、派遣の期間、派遣就業をする日など、労働者派遣法26条に定める就業条件等を明示しなければなりません。
3.派遣先への通知(1号)
派遣元事業主が労働者派遣を行う際は、派遣元責任者から派遣先企業に対し、派遣労働者の氏名やその派遣労働者が協定対象派遣労働者(※1)であるか、無期または有期の労働者であるかなど、労働者派遣法35条に定める事項を通知しなければなりません。
※1 協定対象派遣労働者とは、派遣労働者の同一労働同一賃金において労使協定方式を利用する場合、この対象となる派遣労働者のこと。
4.派遣元管理台帳の作成、記載及び保存(1号)
派遣元責任者は、派遣就業に関して派遣元管理台帳を作成し、台帳に派遣労働者ごとに労働者派遣法37条1項各号の定める事項を記載しなければなりません。
具体的な記載項目としては、派遣労働者の氏名や派遣先の事業所名、始業および終業の時刻など、18の項目があります。詳しくは下記をご覧ください。
【参考】派遣元事業主の講ずべき措置は・・・ – 厚生労働省(P54~55)
5.派遣労働者に対する必要な助言及び指導の実施(2号)
派遣元責任者は、派遣労働者が派遣先企業において円滑に就業できるよう必要な助言や指導を実施しなければなりません。
具体的には、派遣元事業主・派遣先企業の行うべき措置、労働基準法などの適用、苦情の申出方法の伝達など、必要な助言・指導をしなければなりません。また、法改正があった場合には、説明会の実施、文書配布などにより周知をする必要があります。
6.派遣労働者から申出を受けた苦情の処理(3号)
派遣元責任者は、派遣労働者から苦情の申出を受けた場合、その処理に当たらなければなりません。
申出については、書面・口頭を問わず、また、派遣先事業者や派遣労働者を直接指揮命令する者など、職務上地位がある者に伝われば申出としての効果を持ちます。その場合は、派遣先事業主と連携し、誠意をもって遅滞なく、苦情の処理をする必要があります。
7.派遣労働者の個人情報の管理に関すること(4号)
派遣元責任者は、派遣労働者の個人情報について適切に管理しなければなりません。
具体的には、派遣労働者の個人情報が正確なものであるか、紛失や改ざん、破壊がされていないか、事業所内の個人情報を取り扱う職員以外が閲覧できないようになっているかなどを管理する必要があります。
8.派遣労働者についての教育訓練の実施及び職業生活設計に関する相談の機会の確保に関すること(5号)
派遣元責任者は、派遣労働者に対し派遣就業に必要な技能及び知識を習得することができるように段階的かつ体系的な教育訓練を実施し、職業生活設計に関するキャリア・コンサルティングの機会を確保しなければなりません。
9.安全衛生に関すること(6号)
派遣元責任者は、派遣元事業所において労働者の安全衛生を管理する者、そして、派遣先と派遣労働者の安全衛生に関する事項について連絡・調整しなければなりません。具体的には下記の項目などの調整が必要です。
・健康診断の実施に関する事項
・安全衛生教育に関する事項
・労働者派遣契約で定めた安全衛生に関する事項の実施状況の確認
・事故等が発生した場合の内容・対応状況の確認
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10.その他の派遣先との連絡・調整(7号)
派遣元責任者は、上記1から9以外の事項についても、派遣先企業と連絡・調整しなければなりません。
以上のとおり、派遣元責任者は派遣元事業主側の窓口として、その職務内容は派遣労働者や派遣先企業とのあらゆる事項に及びます。
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派遣元責任者となれない者の要件(欠格事由)
このような派遣元責任者の職務の重要性から、派遣元責任者は、次の1から9までのいずれにも該当しない者のうちから選任しなければならないとされています(成田孝士『実務 労働者派遣法概説』(中央経済社)179頁以下を一部修正)。
1.禁固以上の刑、または労働者派遣法や労働基準法、職業安定法、最低賃金法などに違反して罰金の刑に処せられ、その執行から、またはその執行を受けることがなくなって5年を経過しない者
2.心身の故障により労働者派遣事業を適正に行うことができない者として、厚生労働省令で定めるもの
労働者派遣法施行規則第29条の2第2号には、労働者派遣法第36の厚生労働省令で定める基準として、「精神の機能の障害により派遣元責任者の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者でないこと」と定められています。
3.破産者で復権を得ない者
4.労働者派遣事業の許可を取り消され、取り消し日から起算して5年を経過しない者
※平成27年以前に(旧)一般労働者派遣や(旧)特定労働者派遣について、許可の取り消しや廃止がされた場合も含みます。
5.4に関して、取り消しになったのが法人だった場合、当時役員だった者で、取り消し日から起算して5年を経過しない者。
6.労働派遣事業者の許可取り消しに関する聴聞の通知があった日から処分を判断する日までの間に、労働派遣事業の廃止の届出をした者で、その届出の日から起算して5年を経過しないもの
※平成27年以前に(旧)一般労働者派遣や(旧)特定労働者派遣について、許可取り消しや廃止の届け出をした場合も含みます。
7.6の期間内に廃止の届出をした者が法人である場合、聴聞の通知の前60日以内にその法人の役員であった者で、その届出の日から起算して5年を経過しない者
8.暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条6号に規定する暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
9.未成年者
以上に加え、“派遣元責任者となる者の要件”として、3年以上の雇用管理経験があること、過去3年以内に派遣元責任者講習を修了していることなどが規定されています。
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派遣元責任者の選任方法
派遣元責任者は、次の方法により選任しなければなりません(労働者派遣法施行規則第29条)。
1.派遣元事業主の事業所ごとに、専属の派遣元責任者を選任しなければなりません。なお、「専属」とは、他の事業所の派遣元責任者と兼任しないという意味です。
2.派遣元責任者は、派遣労働者100人につき1人以上を選任しなければなりません。
3.物の製造の業務(以下、製造業務といいます)に労働派遣をする事業所では、製造業務に従事させる派遣労働者100人につき1人以上、製造業務に従事させる派遣労働者を専門に担当する派遣元責任者(以下、製造業務専門派遣元責任者といいます)を、選任しなければなりません。
ただし、製造業務専門派遣元責任者のうち1人は、製造業務以外の業務に従事する派遣労働者をあわせて担当することができます。
派遣元責任者講習の受講
派遣元責任者として選任された後も、労働者派遣事業に関する知識・理解を一定の水準に保つため、在任中は3年ごとに「派遣元責任者講習」を受講するよう労働行政機関から指導がなされています。
講習を受講することは、前述したとおり、派遣元責任者となる者の要件とされています(労働者派遣法施行規則第29条の2第1号)。
おわりに
以上のとおり、派遣元責任者の職務は多岐にわたり、いずれも重要性が高いため、選任されるための要件や選任方法、講習の受講などについて、さまざまな規制がなされている点に注意が必要です。
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