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派遣法 2022年07月29日

派遣と請負って何が違う?両者の違いと注意点を弁護士が解説

派遣と請負って何が違う?両者の違いと注意点を弁護士が解説

本記事では、労働者派遣事業を行う際に押さえておきたい事項として、派遣と請負の違いや注意点について解説します。

 

そもそも派遣と請負の違いがなぜ問題となるのか見当がつかないかもしれません。そこで、最初に両者の内容について説明し、次に具体的な違いについて触れ、最後に2つの注意点に触れます。

 

本記事を通して、派遣と請負の違いや、関連した注意点について基本的な理解を深めていただければ幸いです。

労働者派遣、請負(業務処理請負)とは

 

まず、労働者派遣とは、労働者派遣法第2条1号にて下記のように定義されています。

 

『自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの』

 

簡単に言えば、派遣元事業主が自社の従業員(労働者)を、他社において他社の指揮命令のもとで働かせることです。

 

これに対し、請負(民法第632条)※、は、ある企業(請負企業)が他企業(発注企業)に対してその一定業務の処理を請け負い、この請負業務を遂行するために自己の雇用する労働者を発注企業の事業場において自己の指揮命令下に労働させることをいいます。

 

※労働者派遣との区別が問題となるのは“業務処理請負”なので、以下では業務処理請負を前提とします

 

簡単に言えば、派遣元事業主が自社の従業員(労働者)を、他社において自社の指揮命令のもとで働かせることです。

 

両者は、事業主が自己の雇用する労働者を他社において労働させる点で共通しています。

 

違いは、労働者に対する指揮命令を、労務の提供を受ける他社が行うのか(労働者派遣の場合)、その労働者を雇用する事業主が行うのか(業務処理請負の場合)という点にあります(下の図を参照)。

 

【労働者派遣】

 

【請負(業務処理請負)】

 

この“誰が指揮命令をするか”という違いによって、労働者派遣は、次に見るように労働者派遣法による厳格な規制を受けます。

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両者の具体的な違い―労働者派遣法による規制の有無など

 

労働者派遣が厳格な規制を受けるのは、労働者派遣には、労働者が他社において、その指揮命令により労務に従事する点で、労働者供給の側面があり、職業安定法の労働者供給の禁止に抵触するからです。

 

同法44条では、労働者供給が強制労働・中間搾取の温床となることや、雇用責任・使用者責任が不明確・不十分となり、労働者の権利・利益を侵害することから、これを禁止しています。

 

しかしながら、事業主側と労働者側双方に労働者派遣のニーズがあることから、派遣業業者・派遣先企業の責任の所在を明確にして労働者保護を図りつつ、例外的にこれを認めたのが労働者派遣法です。

 

このような法の成り立ちから、労働者派遣においては、労働者派遣法による厳格な規制が及びます。

 

具体的な規制としては、労働者派遣事業を行う際には、厚生労働大臣の許可が必要で、事業報告や労働者派遣契約の内容、派遣元事業主・派遣先のそれぞれが講ずべき措置などについて、法の規制に従う必要があります。そして、違反した場合には罰則が科されます。

 

一方で、業務処理請負については、正しく行われている限り、労働者が他社の指揮命令に服することがないので、職安法44条との抵触は問題とならず、民法その他の法律以上の規制が及ぶことはありません。

 

また、労働者派遣においては、労働基準法や労働安全衛生法など労働関係法について、原則として派遣元事業主が雇用主として責任を負うものの、派遣先事業主が責任を負う事項もあります。また、派遣元事業主と派遣先事業主の双方が責任を負う事項もあります(下の表を参照)。

これに対し、業務処理請負の場合には、労働契約上、および、労働関係法上も、使用者としての責任を負うのは“請負企業のみ”であり、発注企業に責任が生じることはありません。

 

以上のように労働者派遣、業務処理請負のいずれに該当するかによって、(1)労働者派遣法の適用の有無、(2)労働基準法、労働安全衛生法などの適用に関して雇用主(派遣元、請負事業者)と労務提供先(派遣先、注文主)が負うべき責任が異なりますので、両者の区別は大切です。

 

こちらの記事も合わせてご覧ください

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注意点①―派遣と請負の区別について

 

労働者派遣と業務処理請負の区別は、契約の形式によるのではなく、労働者に対する指揮命令を雇用主、労務提供先のどちらが行っているのか、実体に即して判断されます。

 

ですが、この区別が難しい場合もあります。労務提供先から労働者に対し、作業工程の指示、技術指導、情報提供、日常会話などがなされた場合、業務処理請負ではなく労働者派遣に該当するのかなど、区別が困難なケースがあります。

 

そこで、この判断を明確に行うことができるように、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区別に関する基準」(昭和61年労働省告示田第37号)、いわゆる「37条告示」が定められています。

 

その要旨は、労働者派遣と区別される請負(業務処理請負)といえるためには、次のⅠおよびⅡの要件の両方を必要があります。どちらかでも欠ければ労働者派遣に該当するということです。

 

Ⅰ、自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること

業務の遂行及び労働時間に関する指示その他の管理を請負事業者が自ら行うべきこと

 

Ⅱ、請け負った業務を自己の業務として当該相手方から独立して処理するものであること

⇒ⅰ、業務の処理に要する資金について請負事業者が自らの責任で調達・支弁すること

ⅱ、請負事業者が業務の処理について民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと

ⅲ、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと

 

ⅠおよびⅡのいずれかでも欠く場合は、契約の形式が請負(業務処理請負)であっても、労働者派遣がなされているものと判断され、労働者派遣法の規制を受けることになります。

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注意点②―偽装請負について

 

上記の区別に関連して注意が必要なのは、実体は労働者派遣であるにもかかわらず、業務処理請負の形態を取り、派遣事業の許可のないまま自社の労働者を他社で労働させる、いわゆる“偽装請負”についてです。

 

典型例は、業者AがB社から業務処理を請け負って(受託し)、Aの雇用する労働者Xを、B社においてB社の指揮命令のもとで労務提供させているケースです。

 

これは、実態は労働者派遣であるにもかかわらず、労働者派遣の定める要件を満たしていない点で違法な労働者派遣となり、罰則が科されます。

 

具体的には、受託者となる業者Aが労働者派遣事業許可を受けていなければ、無許可で労働者派遣事業を行った者として1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となります(派遣法59条2号)。

 

たとえ業者Aが労働者派遣事業許可を受けていたとしても、労働者派遣契約の締結(同法26条)、派遣就業条件の明示(同法34条)、派遣元責任者の選任(同法36条)などの法所定の要件を満たしていない点で、労働者派遣法に違反し、30万円以下の罰金の対象となる可能性があり(同法61条3号4号参照)、行政監督の対象となります。

 

また、委託したB社は、労働者派遣事業主としての許可を受けていない業者から労働者派遣を受けた者として、その禁止規定(同法24条の2)に違反し、行政指導(同法48条1項)、改善命令(同法49条)、勧告(同法49条の2第1項)、企業名の公表(49条の2第2項)の対象となります。

 

このように偽装請負に該当すると委託者、受託者とも様々な不利益を被りますので、注意が必要です。

まとめ

派遣と請負の違いと、注意点について解説してきました。自社と他者、どちらの指揮命令下にあるかが主な両者の違いで、派遣労働は規制が厳格です。また、偽装請負は違法であるため、絶対に行わないようにしましょう。

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この記事の著者

ueno

中野通り法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属) 中小企業診断士 平成15年弁護士登録。小宮法律事務所(平成15年~平成19年)を経て、現在に至る。令和2年中小企業診断士登録。 主な著作として、「退職金の減額・廃止をめぐって」「年金の減額・廃止をめぐって」(「判例にみる労務トラブル解決の方法と文例(第2版)」)(中央経済社)等がある。

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