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派遣法 2022年04月11日
【改正派遣法】派遣社員に求められる「同一労働同一賃金」の狙いとそのポイントは
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令和2年4月1日から、改正された労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下「改正派遣法」といいます)が施行され、派遣社員に対しても、いわゆる「同一労働同一賃金」が求められています。
派遣社員に対する同一労働同一賃金は、派遣社員の雇用形態がいわゆる間接雇用であり、比較の対象となるのが派遣先の労働者であるという構造から、直接雇用のパート・有期労働法と異なり複雑な仕組みとなっています。
改正派遣法の施行から約2年が経過するところであり、既に多くの派遣会社では対応されていると思われますが、今回は派遣社員の場合の同一労働同一賃金の全体像について解説します。
目次
そもそも「同一労働同一賃金」とは?
働き方改革の一環として日本でも導入されることとなった、いわゆる「同一労働同一賃金」ですが、そもそもなぜこのような施策が必要となったのでしょうか。
実は、同一労働同一賃金の導入は歴史的には何度か議論がされています。今回の同一労働同一賃金導入の狙いは、働き方改革実行計画の前に閣議決定されている「ニッポン1億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定)に明確に表れています。要約すると以下の目的が挙げられています。
① 非正規労働者の待遇を改善し、成長と分配の好循環を形成する
② 非正規労働者の待遇を改善し、女性や若者などの多様な働き方の選択を広げる
上記のうち、①の目的は経済政策として、②の目的は労働生産年齢人口が減少する中における労働力参加を図るもので、社会政策としての目的があります。
今回の同一労働同一賃金の導入は、欧州のような平等原則という考え方よりも、経済政策、社会政策としての狙いがあるところが特徴のひとつといえるでしょう。
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(1) 法律には「同一労働同一賃金」という文言はない
さて、これまで「同一労働同一賃金」と表現して説明してきましたが、実は、法律には「同一労働同一賃金」という文言はありません。
また、実際には職務の内容以外の要素も考慮されていることや後述する労使協定方式も認められているということから、欧州における「同一(価値)労働同一賃金」との対比で「“日本版”同一労働同一賃金」と言われることもあります。
このように「同一労働同一賃金」という言葉は、政治的なスローガンとしての意味合いが強いといえます。
具体的に求められている主要な点としては、下記の4点が挙げられます。
1.均等・均衡待遇方式又は労使協定方式による待遇の決定
2.派遣先の情報提供
3.派遣会社の明示・説明義務
4.派遣先の教育訓練、福利厚生の利用機会の付与が挙げられます
(2) 均等・均衡待遇方式又は労使協定方式による待遇決定
派遣社員の待遇の決定に関しては、2つの方式が定められており、派遣会社は、いずれかの方式を採用することとなります。
(a)均等・均衡待遇方式
まずは、派遣社員の待遇を、派遣“先”企業の労働者との均等・均衡のとれた待遇を設定する方式です(「均等・均衡方式」(派遣法30条の2第1項・同2項))。
ここでいう、「均等」待遇とは、派遣先の「通常の労働者」(以下では、説明の便宜上、単に「派遣先の労働者」といいます)と、職務の内容(業務内容+責任の程度)、職務内容・配置転換の変更範囲が“同じ”場合には、差別的な取扱いを禁止するというものです。
他方で、「均衡」待遇は、派遣先の労働者と、職務の内容(業務内容+責任の程度)、職務内容・配置転換の変更範囲、その他の事情を考慮し、これらに違いがある場合でも違いに応じない不合理な待遇を禁止するものです。
制度的には、こちらの均等・均衡待遇方式が原則的な方式です。
(b)労使協定方式
派遣社員は短期間のうちに派遣先が変わることも多く、その度に派遣先の労働者との比較で待遇を変更しているのでは、派遣社員の待遇が安定しません。
そこで、予め派遣元事業者と当該派遣元事業者の派遣社員の過半数組合(これがない場合には過半数代表者)との間で一定の要件を満たす労使協定を締結し、当該労使協定に基づいて待遇を決定する方式も認められています(「労使協定方式」。派遣法30条の4)。
労使協定で定める事項には、「賃金の決定方法」として、同種業務の一般労働者の平均的な賃金額以上の賃金を定めることが求められており、いわば世間相場との比較で合理的な待遇設定が求められます。
(3) 派遣先の情報提供義務
均等・均衡待遇方式を採用する場合、派遣社員の待遇は、派遣先の労働者の待遇と比較されるため、実際に派遣社員の待遇を決める派遣会社は、派遣先の比較対象となる労働者の待遇情報が必要になります。
そこで、派遣先に対して、当該派遣社員と比較の対象となる派遣先の労働者の待遇情報(※)を提供することが義務づけられました(派遣法26条第7項)。
※待遇情報は下記の5点
①職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲並びに雇用形態
②選定理由
③待遇の内容
④待遇の性質及び目的
⑤待遇決定に当たって考慮事項
派遣会社は、この情報提供を受けなければ当該派遣先と労働者派遣契約を締結することができませんので(派遣法26条第9項)、結果、派遣先は労働者派遣を受けることができません。
なお、派遣会社において労使協定方式を採用している場合には、均等・均衡待遇規定は排除されますので、情報提供の内容は、教育訓練、福利厚生施設に関する情報を提供すれば足りることとなります。
(4) 派遣会社の情報提供・説明義務
派遣社員が、自らの待遇がどのように決定され、どのように均等・均衡待遇が図られているか等を知るために、派遣会社に対しても、派遣社員への明示・説明義務が強化されています。
① 雇入れ時、派遣時の明示・説明義務
派遣会社は、派遣社員に対して、雇入れ時、派遣時には、昇給、賞与の有無等の他、労使協定の対象か否か等の情報を原則として書面(希望があった場合にはFAX又は電子メール)で明示する必要があります。
② 求めがあった場合の説明義務
また、派遣社員から求めがあった時には、均等・均衡待遇方式、労使協定方式のそれぞれで、以下の事項を、原則として資料等を用いて口頭で説明することとされています。
【均等・均衡待遇方式】 | 【労使協定方式の場合】 |
<待遇の相違の内容> ① 派遣社員及び比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項の相違の有無 ② 「派遣社員及び比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容」又は「派遣社員及び比較対象労働者の待遇の実施基準」 <待遇の相違の理由> 派遣社員及び比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき、待遇の相違の理由 |
<賃金以外の決定方法> 協定対象派遣社員の賃金が、次の内容に基づき決定されていることについて説明 ① 派遣社員が従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される通常の労働者(≒正社員)の平均的な賃金の額と同等以上であるものとして労使協定に定めたもの ② 労使協定に定めた公正な評価 <賃金以外の待遇について> 待遇(賃金を除く)が派遣先に雇用される通常の労働者(≒正社員)との間で不合理な相違がなく決定されていること等 |
(5) 派遣先の教育訓練、福利厚生施設に関する義務の強化
派遣先は、上記情報提供義務の他にも、派遣社員に対する教育訓練の実施、福利厚生施設の利用機会を付与することについて、これまで配慮義務であったものが義務化され、強化されています(派遣法40条第2項、同条3項)。
派遣会社の対応のポイント
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(1)明示・説明義務の準備
上記のとおり、派遣会社には、情報提供、明示・説明義務が課されており、その説明等の方法は、書面やメール等で行う必要があります。
そのため、派遣会社としては、これらの義務を適切に履行できるよう、待遇方式としていずれの方式をとるか、また実際にどのような待遇にするかといった点を検討し、予め書面等を用意しておきましょう。
(2)均等・均衡待遇方式か労使協定方式か
均等・均衡待遇方式の場合、派遣の度に待遇を変更しなければならないことから、労使協定方式をとる方が良いという考え方も聞かれます。
この点は確かに考慮要素のひとつですが、労使協定方式の場合には、「同種業務の一般労働者の平均的な賃金以上の賃金」が求められることとなり、派遣先の待遇によっては、労使協定方式によるほうが、賃金の負担が増加する可能性もあります。
そもそも、労使協定方式は、派遣会社の負担軽減ではなく派遣社員の労働条件の安定のためのものであるので、こうした趣旨をよく理解したうえで、いずれの方式を採用すべきかを個別に検討する必要があるでしょう。
(3)パート・有期労働法の適用にも注意
派遣社員は、派遣労働者でもあり、かつ、派遣会社のパート・有期労働者であるのが通常であり、したがって、“派遣会社”の正社員との比較で、均等・均衡待遇が争われる可能性があります(パート・有期労働法8条及び9条)。
この点は、あまり意識されていませんが、実際に争いになった裁判例があり、派遣社員に対するパート・有期労働法の適用が肯定されています(リクルートスタッフィング事件・大阪地裁令和3年2月25日判決)
派遣先が注意すべきポイント
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(1)労使協定方式でも情報提供は必要
時折、「労使協定方式の場合には情報提供義務はない」と誤解されている例が聞かれますが、労使協定方式の場合でも、情報提供の内容に違いはあるものの、義務自体は免除されていません。この点は誤解しないようにしましょう。
(2)自社の待遇見直しと派遣料金の配慮義務
均等・均衡待遇方式、労使協定方式のいずれを採用する場合であっても、派遣会社にとっては賃金の負担が増加する可能性があります。
そのため、派遣先には、派遣会社が、均等・均衡待遇方式、労使協定方式を遵守することができるよう派遣料金の設定を配慮する義務が定められています(派遣法26条第11項)。
したがって、派遣会社が均等・均衡待遇方式を採用しているような場合には、この配慮義務を理由に派遣料金の値上げが必要となる可能性もありますので、改めて自社の社員の待遇の見直しをしておくと良いでしょう。
なお、これは、強行的な規定ではないですが、派遣先がこれに違反した場合には、派遣会社に対して不法行為責任を負うとする見解もあります。
同一労働同一賃金による派遣社員への影響
上記のとおり、同一労働同一賃金の政策的な目的のひとつは、非正規労働者の待遇を改善することで、成長と分配の好循環を形成することにあるため、一般論としては、派遣社員の賃金は上昇する可能性があります。
ただし、これはあくまで一般論であり、派遣先の労働者の待遇がそもそも低い場合には、必ずしも賃金上昇にはならない可能性もあります。
また、派遣会社が均等・均衡待遇方式を採用している場合には、派遣先が変わるごとに自らの待遇も変わることとなり、賃金が安定しないというデメリットもありえます。
いずれの方式をとられる場合でも、実際に派遣社員の待遇が改善されるかどうかは、ケースバイケースというほかなく、疑問があれば派遣会社に説明を求め、自ら待遇の検証を行う必要があるでしょう。
まとめ 法律上の義務を理解し適切に対応しましょう
上記で述べたとおり、「同一労働同一賃金」という言葉は、政治的なスローガンとして意味合いが強いといえ、派遣会社、派遣先に実際に求められる法律上の内容とは乖離があるともいえます。
したがって、派遣会社、派遣先は、「同一労働同一賃金」という言葉に過剰に反応するのではなく、法律上求められる事項を具体的に把握しておき、対応していきましょう。
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