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パワハラ防止法 2022年07月29日
パワハラ防止法はなぜできた?法制定の歴史と判例を紹介
\パワハラ防止法ついてよく分かる資料/
大企業のみならず中小企業へも防止措置の対応が義務づけられることとなった「パワハラ防止法」ですが、そもそもパワハラ防止法はどのような経緯で制定されたのかをご存知でしょうか。
今回は、法律制定までの経緯や、パワハラ防止法以外でパワハラを規制する法律の内容、そして、パワハラ防止法の概要と実際に起こった事件をもとにした判例を、順を追って紹介していきます。
ハラスメントの歴史や変遷(法整備前)
パワハラは、「パワーハラスメント」の略語ですが、この「ハラスメント」とは、人を困らせたり、嫌がらせ行為をしたりすることを指します。
ハラスメントという言葉が広く知られるきっかけとなったひとつが、1970年代にアメリカで「セクシャルハラスメント(いわゆるセクハラ)」という性的嫌がらせを意味する造語が誕生したことです。その10年後となる1980年代には、日本でもセクハラという言葉を耳にするようになりました。
日本では、それまでにも性別に端を発した言動が問題にはなっていたものの、それが「セクハラ」という名前であると認知されたことで社会問題となり、今では多くの人に認知されることになりました。
一方、「パワハラ」という言葉は、日本の株式会社クレオ・シー・キューブが名付け親となり2001年に誕生した和製英語です。高度経済成長期やバブル期をとうに過ぎ、職場での威圧的な態度による嫌がらせ行為に悩んでいた社員などは、この「パワハラ」という言葉が生まれたことをきっかけに次々と声をあげるようになり、「急激に社会へ浸透することになりました。
パワハラ問題が顕在化すると、厚生労働省は2011年に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」を発足し、パワハラ問題の現状把握や予防、解決が必要な行為の具体化、パワハラ問題への取り組みのあり方の議論を開始しました。
その後、2019年には国連によって、職場でのセクハラ・パワハラなどハラスメント行為を禁止するという初の国際労働機関条約が発効されました。パワハラを防止する取り組みが必要であるという、国を超えた大きな流れを受けたことが、2019年のパワハラ防止法成立につながったのです。
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ハラスメントに対する法規制
パワハラについて制定している代表的な法律は「パワハラ防止法」です。これは通称であり、正式名は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」といいます。
この法律は、もともとは経済の発展や雇用を促進するために制定された「雇用対策法」がもとになっています。2018年に働き方改革推進法が整備されたことで、より総合的な観点から労働者の働きやすい環境づくりに取り組むため、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」という長い名称に変更されました。
その後、2019年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」という法律が制定され、女性の活躍推進とともに「ハラスメント」に対する対策が強化される運びとなりました。これを受け、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の内容も改正され、パワハラ防止対策が企業に対して求められるに至ったのです。
前述のパワハラのみならず、現在はさまざまなハラスメントが問題視されています。その中でも比較的よく知られているセクハラの場合は、男女雇用機会均等法や女性活躍推進法などの法律で、性的な嫌がらせ行為を防止する内容が含まれていたり、女性にとって自身の力を発揮しやすい環境づくりが求められていたりと、改善傾向にあります。
また、妊娠・出産を理由とした嫌がらせ行為の総称である「マタハラ」などは、セクハラのケースと同様に男女雇用機会均等法で規制がされており、また育児・介護休業法などでも妊娠・出産をする女性に配慮した規制がなされています。
パワハラ防止法が制定、施行
パワハラ防止法は、2020年6月1日に施行されました。この法律では、パワハラとはどのような行為を指すのかという定義づけを行い、周知を図っています。具体的には、パワハラとは次の3要素すべてを含む行為であるとされています。
1.上司と部下などの優越的な関係を背景とした言動であること
2.業務上必要であり相当な範囲を超えた言動であること
3.労働者の就業環境が阻害される言動であること
上記の定義に加え、厚生労働省ではパワハラに該当する例・該当しない例を具体的に列挙し、経営者や社員がよりパワハラ行為がイメージしやすいように啓発リーフレットを発表しています。
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その上で、パワハラ防止法では、職場におけるパワハラを防ぐために雇用管理上講じなければならない対策の内容を挙げています。具体的な内容は次の通りです。
1.パワハラ防止に対する事業主の方針の明確化・周知や啓発
2.相談窓口の設置や相談を受けた際の体制強化
3.パワハラ発生後の迅速・適切な措置
4.相談者のプライバシー保護措置・相談内容を元に不利益な処遇をすることの禁止措置など
昨今は、パワハラにまつわる諸問題が各地で顕在化し、深刻な社会問題となっています。これを受け、パワハラ防止法では各企業に対して上記の措置を「講じなければならない」と義務づけています。義務の対象となる企業は段階的に拡大される仕組みが取られており、法律制定直後の2020年6月は大企業、2022年4月以降は中小企業も対象となり、現在では全企業が対象です。
パワハラの判例
最後に、これまでに社内で行われた嫌がらせ行為がパワハラとして認定され、行為者だけでなく企業(雇用側)が責任を問われるに至った判例をいくつかご紹介しましょう。
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1.川崎水道局事件(東京高裁 平成15年3月25日判決)
川崎市の水道局という地方公共団体内で発生した判例です。職員の一人が、上司など複数名の職員から執拗な嫌がらせを受け自殺し、その後遺族が訴えを起こしました。嫌がらせを受けた職員の親族が、かつて川崎市の土地貸与の申し出を断っていたという経緯があり、これを不満に思う者が被害者の職員に気づき、嫌がらせ行為が開始されました。
この判例の特徴は、首謀者のみならず、傍観者も安全配慮義務を怠ったとして責任を問われたことです。本来ならば、嫌がらせ行為を認知した時点で防止に向けた取り組みが必要であったにも関わらず、止めることをしなかったことで被害者は精神を病み、自殺に至ったとされ、傍観者の行為と被害者の自殺には因果関係が存在すると判断されました。
2.国際信販事件(東京地裁 平成14年7月9日判決)
当時経理を担当していた社員に対し繰り返し行われた複数の行為が、パワハラであるとして会社に責任があると認められた判例です。具体的には、(1)上司と男女関係にあるという事実無根の噂を流される、(2)特定の部署で一人激務を担わされ、ヘルプ要請も聞き入れられなかった、(3)内勤として軽易な補助業務のみという、仕事を与えられない状況下に置かれた、(4)整理解雇の際に他の社員とは異なり再就職先あっせん等の対応もないまま率先して解雇された、といった行為が、社員を孤立させるための嫌がらせ行為であると認定されました。
この判例では、嫌がらせを行った当事者のみならず、企業の代表取締役個人に対して責任があると判断された点がポイントです。組織を預かるポジションにありながら、嫌がらせ行為を防ぐ対応をすることなく放置していたことが、代表者にあるまじき対応であると判断されたためです。
3.平安閣事件(最高裁第二小法廷判決 昭和62年10月16日労働判例506号13頁)
結婚式場で有期契約を交わす社員が、実施された雇止めを不服として仮処分を申請し、その後和解が成立したにも関わらず、嫌がらせ行為を受けたことに対して訴えを起こした判例です。
この判例の特徴は、本来契約時に交わしていた従事業務の内容とは異なる雑務を命じられ、身体に支障をきたし、欠勤に至った点です。
従事させられた雑務は本来では部署ごとに必要に応じて実施されており、特定の社員を専任とした事実がこれまでになかったことや、必要性の全くない門の開閉を命じられていたことなどが、本来は予定されていなかった業務を命じた行為として企業側の管理体制に問題があると判断されました。最終的には、体制に不備があったことで社員は業務の範囲を超えた苦痛を受けたとして、社員の権利を侵害した不当行為にあたるとして損害賠償請求が認められました。
【参考】厚生労働省サイト あかるい職場応援団 「ハラスメント基本情報」裁判例を見てみよう: https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/index
まとめ
パワハラ防止法では、パワハラと判断されるさまざまな具体例や、それを防止するための具体的な対策が広く制定されています。
パワハラは、社長を始めとした経営陣や管理職、そして雇用形態にかかわらず会社で働く社員すべてが防止すべき行為であるという認識を持つことが必要不可欠です。経営者、上司、部下のすべてが同じ方向を向き、継続的にパワハラ防止の措置に取り組んでいくことで、ハラスメントの起こらない職場風土が出来上がることを覚えておきましょう。まずは、自社の状況を洗い出した上で、最適なパワハラ防止策の内容について検討してみてはいかがでしょうか。
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